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欧米30カ国の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議がスペイン・マドリードで開かれた。岸田文雄首相は日本の首相として初めて同首脳会議に出席した。
日本とNATOが、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分だと確認し、協力関係を新たなレベルに引き上げることで一致したことを歓迎する。
欧州ではロシアによるウクライナ侵略が続いている。インド太平洋地域では、中国が南・東シナ海で力を背景とした一方的な現状変更を試み、北朝鮮が核・ミサイル戦力を強化している。
新時代に備えた指針に
今回の首脳会議の特徴は、NATOが、世界の安全保障を損なう懸念対象としてロシアと中国を名指しし、日本など域外のパートナー国とも協力して、厳しさを増す新しい時代に備える姿勢を明確にしたことだ。およそ10年間の指針となる「戦略概念」を改定し、ロシアを「最も重大かつ直接的な脅威」と位置付けた。
「戦略概念」には中国について初めて盛り込み、「体制上の挑戦」を突き付けていると強い警戒感を示した。東西冷戦期の旧ソ連に向けた懸念と似通っている。
このような中露は、連携して脅威となる恐れが強まっている。中国はロシアのウクライナ侵略を批判せず、経済関係を強めている。中露の海軍艦艇は最近、それぞれ日本列島を周回した。結託して日本を脅しているのは明白だ。
NATOは多国籍の即応部隊を今の4万人から、来年以降30万人以上へ増強することを決めた。
首脳会議を機に、北欧のフィンランド、スウェーデンのNATO加盟申請に加盟国で唯一反対していたトルコが翻意した。
北欧2国は加盟へ大きく前進した。実現の暁にはNATOは北欧から東欧にかけてロシアに接する。ウクライナ侵略を契機とした当然の防衛強化策であり、欧州の平和と安定に資する。NATOの自国への接近を嫌っていたプーチン露大統領にとっては、自ら招いた戦略的敗北といえる。
注目すべきは、ロシアだけに目を奪われてもおかしくないNATOが、インド太平洋地域への安全保障問題に関与する姿勢を崩さなかったことだ。岸田首相に加え、オーストラリア、ニュージーランド、韓国の首脳を会議に招き、これら「パートナー国」との協力強化を打ち出したのである。
岸田首相は首脳会議で重要な指摘を行った。「ウクライナ侵略はポスト冷戦期の終わりを明確に告げた」「ウクライナは明日の東アジアかもしれないという強い危機感を抱いている」などと語ったのである。首相が披露した時代・情勢認識は妥当だ。
今後の課題は、中国や北朝鮮、ロシアの隣に位置する日本が、同盟国米国を含むNATO諸国から信頼を集めながら安全保障協力をいかに深めるかである。
努力が対日信頼高める
欠かせないのは、日本がNATO諸国と同等かそれ以上の安全保障上の努力を示すことである。
NATO諸国の最近の安全保障政策の展開は、日本と比べ迅速かつ大規模だ。
ドイツを含む加盟国は相次いで国防費の「国内総生産(GDP)比2%以上」のNATO目標達成を打ち出した。北欧2国加盟の動きや即応部隊の増強も急速だ。兵器供与はウクライナの抗戦を支えている。
岸田首相は首脳会議で「日本の防衛力を5年以内に抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意だ」と語った。NATOとパートナー国に対する約束といっていい。
「抜本的な強化」「相当な増額」とは、日本以上に防衛努力を重ねているこれら諸国から見てもうなずける規模とスピードでなくてはならない。
日本が、自国の経済規模と厳しい安全保障環境に応じた防衛力を整備して、抑止力や有事への対処力、外交力を培わなければ、NATO諸国の失望を招く。それでは日本とNATOが平和のため、世界規模で協力することはおぼつかなくなる。
自らの「国際公約」の重大性を、岸田首相は肝に銘じてもらいたい。参院選では、NATO諸国の日本に対する期待の大きさと、防衛力整備の大切さ、その理由を分かりやすく説くべきである。
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2022年7月1日付産経新聞【主張】を転載しています